21

7月

2011

クラゲに救われた水族館

李怡声

日本動物園水族館協会加盟されている70近くの水族館の中で、最も古くて小さいのが、鶴岡市立加茂水族館なのだ。加茂付近の日本海に面した断崖絶壁のトンネルのすぐに、加茂水族館がある。水族館の建物自体はぱっとしない、うっかりごされそうな存在である。

 

一見したことなさそうな加茂水族館に実は、世界一の展示種数る約40種類のクラゲがいるのだ。館長村上龍男さんは口癖のように、「これほど、老巧弱小貧乏三拍子った水族館は他にない」と言うが、この水族館のには、人の心をさぶる物語があった。

 

鶴岡市立加茂水族館は昭和31年に開館された。47年の間、めに困り、失敗を重ねながら、つらい経験を沢山してきた。平成9年に倒産危機り、入館者は9万人ほどに落ち、経営限界だった。村上館長は、重い借金われどん底を経験してきたと言う。

 

そんな加茂水族館を救ったのが、クラゲだったのだ。

 

ある日、インドネシアから取り上げられたサンゴ水槽から、小さなクラゲが(わ)いてきたのだ。その不思議な姿に圧倒され、最初はそれが何の生き物なのかも分からなかった。とにかく、そのクラゲを展示してみたところ、なんと、お客さんが大喜びだった。喜んでいるお客さんの姿を見て、村上館長はクラゲが「これまでと(ちが)う、大きな力を持った生き物だ」ということに気付いた。今になってり返ってみると、あれほどめられていなかったら、クラゲのれた美しさは発見(はっけん)できていなかったのかもしれないと館長さんは振り返る。これをきっかけに、村上館長はこれからクラゲに力を入れ、客を集めることを決めた。

 

ところが、ここにまた新たながあった。加茂水族館のスタッフの中で、クラゲについての知識を持っていた人は誰もいなかった。クラゲは寿命が短く(長くても四ヶ月)、展示を続けるには、人間の手で繁殖させなければいけなかった。しかし、クラゲの卵があまりにも小さいため、見えなかったのだ。クラゲの飼育に必要な顕微鏡保温箱、クラゲ専用の水槽などが次から次へと出てきたが、それらを買うお金は一切無かった。

 

水槽の中での受精に何回も失敗したが、結局は、一回だけ成功した。「世の中、神様いるぞ」と村上館長は誇らしげに語った。 そこから、だんだん知識経験み重ねながら、クラゲの種類を増やしていった。やっと8種類のクラゲが集まったところで、館長は胸を張って、「日本一」と名乗ったが、誰もめてくれなかった。ここで、村上館長は新たな発想を生み出した。それが、今の「クラゲレストラン」の誕生に繋がった「生のクラゲを食べる会」だった。これを提案したとき、誰も本気にしてくれず、館長はバカにされた。それでも、「他の人がやらないことにチャレンジすることに価値がある」と村上館長は信じ続けた。意外な事に、「生のクラゲを食べる」は効果的で、それをきっかけにクラゲ入りの饅頭とようかんも作られた。これらのクラゲ商品は多くの注目を集め、全国放送で、人気のある「みのもんた」と「テリー伊藤」のテレビ番組にも取り上げられた。このおで、入館者が増え、売り上げが一気に上った。そのお金を再投資し、クラゲの展示をさらに増やしていったのだ。

 

ボストン大学名誉教授下村さんは、2008年に、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の発見でノーベル化学賞を受賞した。そんな下村先生と村上館長はがりもなかったが、唯一共通点は、「クラゲに救われた」という事だった。村上館長は下村先生に手紙を書き、お祝いをべ、同館のオワンクラゲは発光しないことにれた。く事にある日、下村先生から返事の電話が来たのだ。村上館長は、「あの大先生が俺に電話をくれるはずがない」と思い、いたずら電話だと思ったそうだ。それから、村上館長は下村先生とやり取りを始め、オワンクラゲを発光させるアドバイスまでもらった。村上館長は、どうにかして、下村先生にこれからクラゲで生きていく加茂水族館に来て欲しく、手紙を書き続けた。すぐにOKはもらえなかったが、敬老の日に、村上館長は不老不死のベニクラゲのデザインをいれたネクタイを下村先生にプレゼントした。それにされたのは「長生きしてください」というメッセージ。それが下村先生の心を揺さぶったのか、先生は2010年4月に、本当に来館することになった。      


下村先生は、何故よりによってこんな小さくて古い水族館に来たのかと聞かれたとき、「田舎が好きだから」という、曖昧(あいまい)な答えしか返さこなかった。訪問中、下村先生は40種近くのクラゲと、同館の繁殖技術に先生は非常に感心し、『想像以上だった』とコメントした。そして、帰る間際に、先生は、「加茂水族館に来たのは『村上マジック』かな」と一言もらした。

 

さすがに色んな経験をしてきただけに、この小さな水族館は(たし)かに人を引きつける特別な力を持っている。それは、クラゲの不思議な魅力なのか、「村上マジック」なのか、私にも言い切れない。村上館長とのインタビューを通して、人生の生き方や、人のやっていないことを切り開いていくことの大切さについて学んだ。加茂水族館の今までの成果に対して、村上館長は、「知らないからやった。今の苦労を知っていたら、やっていなかった。知らないのも力だ」と最後に語った。

 

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